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話題の連続起業家正田圭( @keimasada222 )さんのTIGALA株式会社の事業が面白いな、と思ったところと「オトナ」の話。サブタイトルは『若人はいかにしてダークサイドに陥るのか、そして再び緑のライトセイバーを手にすることはできるのか?』

年明けから日本のTwitterは平常運転でしたね、

はい。その象徴が、えらてん( @eraitencho‏ )が書いたこちらのnoteに端を発する、連続起業家正田圭氏の「経歴詐称」疑惑です。

正直、このネタについて書く気はなかったんですが・・・資料を目にして思うところが出てきたので。

note.mu

ちなみに最初に言っておくと、個人的にはこの「経歴詐称疑惑」に関して言えば、"嘘じゃないかもしれないけれども、実態以上に優良そうに見せて判断にバイアスを持たせる可能性がある”というふうに思っており、景表法における「優良誤認」や「有利誤認」に近しいものの印象受けています。「優良誤認」や「有利誤認」は消費者庁管轄の案件で一般消費者対象のものなので、今回の件には当てはまらないと思いますが、「個人」や「法人」を実態(としての事実)以上に優良そうに見せるために行った(=盛った)ということであれば、やはり問題はあるんじゃないかと。そもそも正田氏が昨年行ったと言われる『生の事業計画書』の説明においては、投資家向けにはできるだけ経歴などを「盛る」ことと明確に書かれているので、これは疑いを晴らすのは難しい。ただし、これを持ってして「詐欺である」というのもまた難しいということになるでしょう。

あと一つ気になるのはTIGALA社はM&A仲介業と称してるようですが、M&A仲介そのものは免許はいらないでしょうけど、実際は金融関係や投資顧問関係の免許をもってして行ってるところも多い一方、同社はそのあたりを持ってるのかどうかもわからないので信頼性の面でどのように担保するんだろうと。これら免許を持ってる会社がたまに売りに出されてたりするので、それこそM&Aするんでしょうかね。このあたりのM&Aや投資まわりについての同社の疑問点はきっと、元隊長あたりも書きそうな気がするので(忙しそうなので無いかもしれんけど)ここでは深掘りしません。

ここで書きたいのはそうした「経歴詐称疑惑」や同社の「M&A仲介業」としての妥当性や合法性という話ではなく、同社の事業構造が面白いかもしれない、ということなので、そちらに話を進めましょう。

下は同社の事業計画書に描かれていた事業構造です。

入手経路はノーコメントです。というか今どきこういうのはネットに転がってたり、回覧されてきたりしますね。そもそもこちらは正田氏が『生の事業計画書』を公開するというイベントで配布(?)されたもののようです。

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資料 p23

こちらの図を見て一番最初に沸いたのは、「"脱社畜サロン"が事業に組み込まれてたんかーい!!!」という驚きです。同サロンのありようや運営者チームの話は置いておいたとしても、このM&A支援事業会社にも社員はいるし、M&Aをする・される企業においても社員はいるわけですよ。なのに「反会社」的なサロンを運営する意味が本当にわかりません。よしんば、「会社を飛び出して起業する人たち」が集まるサロンというのを想定していたとしても、サロンの主たる運営者の中にはそもそも"会社員"を”社畜”とその存在そのものを頭ごなしに否定するような人物もいるわけですから、M&A支援事業の会社が運営するサロンとしては適切なものとは思えません。(正田さんは)「インターネット当たり屋」と某氏に称された"えらてん"に絡まれたように見る人もいますが、むしろ正田さんがまっとうな方に進むのであれば、高知に住んでいる”インフルエンサー”とかいう人物とつるむほうがよろしくない。なので、抜けるキッカケを作ってくれたということで、正田さんはえらてんに感謝したほうがいいかもしれませんね(ホント)。

あらら、、、また炎上のネタのほうに行きましたが、この図を見て「!」って思った2つ目のポイント(こちらが本筋)についてお話しなければ。

この逆三角形の図は、マーケティングをやっている方が見れば「ファネル」だと気づくでしょう。

「ファネル」というのは、「puchase funnel」=「購買の漏斗」というもので、消費者が認知から購買に至るまでの段階を図示したものです。

参考までに、リサーチ業界大手のマクロミルさんの説明を以下に紹介しておきます。

www.macromill.com

また、B2Bのデジタルマーケティングをやっている人が見れば、「あ、これインバウンドマーケティングだ」と気づくかもしれません。

それぞれのライフステージごとにあわせたコンテンツを適切なチャネルで提供し、顧客を育成していくという手法、それが「インバウンドマーケティング」。

もしご存じない方いらっしゃいましたらこのあたりの資料がわかりやすいかも。

www.slideshare.net

 

ちなみにこういう本もあります(著者=このブログ主) 

インバウンドマーケティング

インバウンドマーケティング

 

 本家 HubSpot社の創業者二人が書いた本の第二版はこちら

【増補改訂版】インバウンドマーケティング

【増補改訂版】インバウンドマーケティング

 

 

実際、TIGALA社の事業計画書の別ページを見てみると次のような箇所がありました。

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資料 p19

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資料 p20

つまり、自社メディアとSNSを通じて「見込み客」=現起業家・将来の起業家を見出して、育成させていって、M&Aや上場などのエグジットを支援する、というそういうビジネスモデルであり、これは極めてインバウンドマーケティングというか、確かに今の時代にあったモデルな気がします(このあたりでけんすうが出資したわけもわかる気がした)。ただ、成功確率を高くするためには”パイプライン”に入っている案件の”質”が高ければないとダメですし、ここでまた「脱社畜サロンとかやってちゃダメでしょう」という話になるわけですが。

ちなみにこういうページもありました。まさにインバウンドマーケティングという言葉が入ってます。

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資料 p29

M&Aなどの時間がかかり成功確率もよくわからん事業をやっていると、事業収入が安定しないところ、(上記のようなインバウンドマーケティング的理由とともに)「サロン運営」や「メディア事業」によって安定的な収入(=ストック収入)を得ようとしたのでしょう。でも筋が悪かったかもね(The Pediaのほうの記事も過去記事と最近の記事の質が雲泥の差になってるし)。

さて、このメディアやSNSを通じた上記のような事業というのは、確かにできなくもない気はしてまして、経済・経営に関する情報が集まるところには経営者は助言をしてもらいたいし、場合によっては企業売却などの相談にものってもらいたくなるかもしれません。そうした意味では、「もし日経新聞社がM&A事業を手がけていたら・・・」とか、「USABASEがM&A事業を手がけていたら・・・」と考えてみたら、TIGALAが狙っているようなビジネスの筋も「なるほど」と思うわけです(でも一方でそんなのインサイダー情報多すぎて色々法律に引っかかりそうな気もするんだけどな!という)。

やはりM&A仲介事業なるものをやろうとすると、(先述したように明確にこの事業への免許がない分)「信頼・信用」が重要でしょうし、「自社で発信できるメディアを持つ」とか「プロフィールを盛る」というのもそうした「信頼・信用の獲得」というのを焦ったからではないか、というふうに思うわけです。

確かにサロン収入などはしばらくの間はストック収入として美味しいかもしれませんが、しかしながら実際は事業収入のためではなく「信頼・信用の獲得」が主目的ではないかと。

ただ、「信頼・信用」というのは「買ったもの」や「借りてきたもの」で成り立つものではありません。これは普通にビジネスをやっている人であれば身についているもの。一方で、最近の(従来の意味とは違う蔑みの意味にもなりそうな)「インフルエンサー」と呼ばれる人々は「信頼・信用」というものをフォロワー数だのPV数だのといった、本来取引相手として「信頼・信用」を構築するのに必要な事業における経歴や実績とはかけ離れたものを積み重ねているだけで、それらを新しい経済モデル=「評価経済」と勘違いしているだけなのです。実際はB2Bの世界ではむかーーーーしから「評価経済」なのですよ?

正田さんはきっと同世代のノリで「若気の至り」に陥ってしまったのではないか?という可能性も僕自身は拭えません。あと「悪いオトナ」ではなく「悪い同世代」に同調してしまったとかね(これは最近多いんじゃないかと思うけどめちゃ悪手ですね)「連続起業家としての実績」のあるなしについては、情報も調べる手立てがないですし、それが嘘であるとしたらそれをもっともわかってるのは本人であり、かつ彼にお金を出した投資家たちでしょう。なので、問題があるのであればそこは本人たちが自省することであって、「外野」wにはわからない。

ただ、僕自身は仕事柄海外のベンチャーとの付き合いが多く、実際にサンフランシスコ界隈のエンジェル投資家たちが集まるような(リアルな)サロンにも、米国の起業家たちと出入りしていたことがあり、ある種のエコシステムを知る機会が何度もありました(盛ってません)。

僕が日本のベンチャーと海外のベンチャーを見ていて、一番の相違点として思うのは、「オトナが機能しているかどうか」です。

「オトナ」というキーワードを聞いただけで、「そういうマウンティングしてるところが嫌なんですよね・・・」とか「昭和のおっさん的」だのいう人々は世の中の片隅に置いておきましょう。海外のベンチャーには、ボードメンバーに「オトナ」がいるのが普通です。場合によっては起業家自らは現場の仕事を促進させることに注力するため、経営は「オトナ」に任せるというケースも多いです。後者のもっとも有名な例はGoogleですね。

こうした「オトナ」たちは、それなりの企業でマネジメントを経験してきた人たちが殆どです。そういう人たちは酸いも甘いも・・・というか、ビジネスパーソンとしての成熟度が高く、経営というものを売上数字だけではなく、人事・組織や会社としてのビジネス倫理についても助言を与えていますね。だからこそあちらのベンチャーには人を小馬鹿にしたような倫理にかけるビジネスが少ないのだと思いますが。

もちろんそうした「オトナ」ボートメンバーの中には、過去に起業して成功させたことがある連続起業家も参加していたりしますが、そうした人物も過去に「オトナ」たちに育成されてきているわけです。結果としてビジネス倫理から大きく外れるような人はほとんどいない(一部にそうでない有名人もいたりしますが)。

なので、「オトナ」を活用したベンチャーはうまくいくはずなんですが、「オトナ」を否定する人たちだとこれはできませんね。

TIGALAの場合は、正田さん「脱社畜サロン」なぞを運営するという話になったときに「あれ?これやばくないか?」ということを言い出す「オトナ」がいなかったのか、とか、fastgrowやQREATORSなどなどのメディアにやたらと(提灯記事とバレる)露出を増やすことで逆にボロが出る可能性を想定した「オトナ」はいなかったのか?など、非常に「?」に思うところがあるわけです。

正直、広報やマーケティング領域がわかる「オトナ」がVCに少ない気がしますし、また「オトナ」を迎え入れてるところは日本のベンチャー界隈には少なすぎますね。ほんと。その筋からの話によると、VC側が「オトナ」を入れようとしても、ベンチャー側が拒否するとかもあるようですが、そんなことしてたらダメですよ。

というわけで、正田さんにおきましては真っ当な路線で頑張っていただきますよう、「外野」ですが応援さしあげます。正直、ビジネスの仕組みとしては面白いと思った。ただし、倫理的にまずい部分あると思った(もしかすると法律的にも)。あと、中学生を起業家にするプロジェクトとか、ほんと面白いと思ったんで。

というわけで、こういうことでよかったんじゃないですかね↓

note.mu

加えて「オトナ」たちには、メンターとしての正しい導きをされることを。

 

あ、それともう一つ、情報格差を利用して「情報を知らない純粋な人たち」を騙して低レベルなコンテンツでサロンやnote販売するビジネスは駆逐したいですね。