mediologic

メディアと広告とマーケティング、そしてサービスデザイン。

”engagement”をデジタルマーケティングにおける定義としてもう一度理解し、広告の価値として見直す。

engagementとは何か?をソーシャルメディアマーケティングバブル時代に考えた時の話。

2010年にとあるセッションで、「エンゲージメントとは何か?」について話をしたことがある。

以下がその時に用いた資料。

この資料を作った際の背景は、

  • ソーシャルメディア業界で「エンゲージメント」という言葉がやたら使われだした。 しかしながら誰も明確にそれが何か答えられない。
  • 一方でキズナのマーケティング ソーシャルメディアが切り拓くマーケティング新時代 (アスキー新書)という書籍が売れ、ソーシャルメディアによって作られたキズナが「エンゲージメント」と解釈されだした。
  • とりわけ「ブランドロイヤリティ」との混同が見られ、「エンゲージメント」は違うのではないか?という疑問があった。

というものであった。

上記の資料の中では、「婚約」という行為をなぞらえて「ある行為に向かうということが約束されている状態」とし、すでにブランドの結びつきが出来上がっている状態から培われる「ブランドロイヤリティ」とは違うものである、としている。

つまり、「ブランドエンゲージメント」とは、まだ顧客になっていない人も含めてのブランドへの心的結びつきを指し、「ブランドロイヤリティ」はすでに顧客となった人たちとの結びつきである、というものとの定義をしたのである。

また、それと同時に、「engagement」という言葉が広告・マーケティング業界で使われだしたのは2000年代半ばの米国の雑誌業界のことであり、"Media Engagement"という言葉で、「メディアが持つ読者との心的結びつき」を指す言葉であることも上記資料の中では紹介している。

とりわけ、この"Media Engagement"という概念は、ネイティブ広告の世界で再度見直されるべきものではないかと思う。

ネイティブ広告において、Media Engagementは再確認されるべき。

ネイティブ広告は、

  • 広告のフォーマットが媒体が提供している記事と似たデザインとなっている。

というところばかりが注目され、記事で構成される媒体なのにそのリンク先が資料ランディングページに飛ばされるといったものもある。しかしこれは単なる「サムネイル付きテキスト広告」であって、「ネイティブ広告」ではない。なぜなら「ネイティブ広告」が「ネイティブ」であるためにはもう一つの要素が必要だからだ。それは、

  • その媒体において通常ユーザーが期待する体験と同じ体験が広告においても起きること。

である。例えば、見出しをクリックしたら記事・コンテンツが出てくる媒体であれば、そこでの「ネイティブ広告」は、クリックしたら記事形式の広告や諸々のコンテンツが表示されるものでなければならないし、例えばそれがAmazonやYelpでも実施されているような一般的に sponsored listing と呼ばれているものも、コマースやリスティング的なサイトとして、その飛んだ先が(ペイドであっても通常と同様の)商品情報や店舗情報であるからこそ「ネイティブ広告」として定義されるのである。

この「ユーザーが媒体に対して持っている期待(値)」というものが"Media Engagement"だと考えることができ、ネイティブ広告以外で言えば、例えばVOGUEやELLEのようなラグジュアリ・ファッション誌にファッション業界が広告を出稿するのは、単にターゲットとなる人々が読者であることなだけでなく、そのメディアとの結びつきを重視している。上記スライド資料の中にも書いたが (Media) Engagement Index という考え方があり、媒体のもっている価値(Engagement効果)が広告に影響を及ぼして、広告効果を上げたという考え方もある。この雑誌における Engagement Index という考え方は、「ネイティブ広告」が媒体との親和性を重視すべき広告だからこそ、再認識されるべきだと思う。

広告・マーケティング指標としての Engagement は、CPC重視・ダイレクトレスポンスに偏ってしまった日本のデジタル広告市場に、ブランド広告指標を取り戻す新たな芽となるはず。

さて、実は今回のブログ記事は、この直前の記事、

マーケターならTwitterは公式アプリを使うべし

を書いてて、「engagement」についても書いておこう、と思って書いている。

※上記をお読みになってない方はぜひお読みください。

先にも書いたように日本国内では、「engagement」を”ブランドとの結びつき”とのみ捉える向きがまだまだあり、ブランドロイヤリティとの混同もよく見られるが、少なくともデジタルマーケティングにおいては、三つの観点から「engagement」を捉えたほうが良さそうだと思う。いや、この三つが存在するといって間違いない。

一つ目は先に書いたような「engagement」。

  • 見込客か顧客かに関わらず、ブランドへの心的結びつきがある状態を指す「engagement」。

についての「engagement」であり、これが「Brand Engagement」である。

次に、より広告媒体に近いところで、広告媒体自体が持つ価値として再考されねばらならない、

  • 媒体との心的結びつきや期待がある状態を指す「engagement」。

これが「Media Engagement」。

そして三つ目が「広告効果・マーケティング効果」としてのもので、

  • 広告やマーケティング活動に対する interaction(引き起こされた行動)としての「engagement」

である。

例えば、Twitterの公式アプリ内には、あるツイートによって得られた「engagement」を把握することができる機能がある。

Twitter Analytics 04

この中で「engagement」は、ツイート内のリンクのクリックや、ツイートの詳細を見るために開いたり、ツイート内の動画を見たり、リツイートされたり、お気に入りに入れられたりといった、ツイートによって引き起こされたアクションとして定義されている。

この点はデジタル広告業界において非常に重要なポイント。

実際、米国のネイティブ広告の業界の中でも「engagement」は「そのネイティブ広告によって引き起こされたアクション(interaction)」であるということが標準的になってきている。

私が日本でのビジネス代表となっている Sharethrough においても、engagementという指標がダッシュボードの分析項目で見られるようになっているが、これは上記のようなアクションに関する指標だ。

つまり、デジタル広告、特にネイティブ広告においては、「engagement」とは「ブランド広告の指標」として、これまでのクリックやCTRに取って代わるような指標として用いられ出している。

そもそもデジタル広告(=ネット広告)において、「ブランディングよりもダイレクトレスポンス」が重視される傾向がとりわけ日本国内では多い。その理由は「クリック」とその先のアクションとしての「コンバージョン」こそが(ネット)広告の効果指標とされてきたからだ。

その背景には「ブランド広告は効果指標が作りにくい」という業界共通の認識があったからだとも思う。15年ぐらい前、博報堂在籍時代には当時のDACのメンバーとともに、「バナー広告のインプレッション効果」や「リッチメディア広告のブランド効果」というものを研究していたことがあるが、なかなかいいロジックに落ち着くことはなかった。今思えばそれもそのはずで、そうしたブランド広告に関する効果を従来メディアにおけるそれと同様に把握をしようとしたからだ(その後、「バナー広告のインプレッション効果」はアトリビューションや検索に及ぼす効果として扱われ、結局はコンバージョンに及ぼす影響ということになってしまった。これはブランド効果についての矮小化と言わざるを得ない)。

さて、”ブランド広告に関する効果を従来メディアにおけるそれと同様に把握をしようとしたから”という反省から今考え直すと、やはりネットという世界で生まれた広告・マーケティングコミュニケーションが他のメディアにおけるものと違うのは、「双方向性」、「インタラクション」があることが重要という原点に立ち戻らねばらならいということだ。思うに、博報堂には「インタラクティブ局」というのがあり、電通には「インタラクティブコミュニケーション局」というのがあった(そして自分自身、その両者に在籍していたじゃないか、と)。

もともと広告業界でデジタル関係の部署が出てきた際には「インタラクション」という言葉がよく使われた。それこそが、従来広告と違うデジタル(やネット)の世界の価値だとされたからだ。今、もう一度、それをこの業界は思い出さないといけないのではないか?

「engagement」は”広告やマーケティング活動によって起こされたアクション”と考える。

このことはネット広告は「ダイレクトレスポンス指標」だけでなく、「ブランディングのため指標」として再度あつかわれるきっかけとなるはずである。 なぜなら、これまでは「ブランディング」=認知と思われてきたからこそ、ネット広告ではそんなの難しい、とか、それよりも効果のわかりやすいダイレクトレスポンス、とされてきた。しかし、ソーシャルメディアでシェアされる、動画・写真の再生される、記事が読まれる、といった様々な「広告やマーケティング活動で起こされたアクション」が効果として取得しやすくなってきてる状況を見ると、これは「ブランディング活動における効果」であり、その指標として「engagement」というのは「数値として把握しやすいブランディング活動指標」であるだろう。

今いろいろな媒体が「ネイティブ広告」をCPCで販売していたり、媒体の価値も加味せず、広告ネットワークの一部としてネイティブ広告を安価に配信・販売している状況を見ると非常に悲しくなる。なぜならそれは「ダイレクトレスポンス重視」の広告の売り方にすぎないからだ。

誤解されないように言っておくと「ダイレクトレスポンス」がダメだと言っているわけではない。そうではなく、デジタル(ネット)の広告はもっと「ブランディング」にも使われるべきであり、そのために業界の中で共有される意識と指標があれば、「ブランディング」を目的とした広告主も増え、その予算が業界内に落とされる状況を作ることができるはずだ、と声を大にしていいたいのである。

それゆえ、上記したような三つの「engagement」に対する理解を業界内でぜひとも浸透させ、そしてネイティブ広告のような「新しい広告」については、それにふさわしい指標を持ってしてビジネスを作り、業界を変えていきたいと思うのだ。

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