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「原DX」: " e 化"と" i 化" - DXブームの20年前にあったデジタル普及世界に対するコンセプト

以下に書くのは,"原DX”の話である。 

 紛れもなく,これまでのキャリアの中で自身の思考に影響を大きく与えたことの1つは,博報堂にかつてあったインタラクティブ局に在籍していたことである。その時期に話をされていたことを書こう(そもそも当時ですら知ってる人は少なかったと思うが)。もう20年近く前の話だし,誰も書くことはないだろうから。あるいはこの文章を博報堂の誰かが目にして,博報堂の戦略の”見直し”に刺激となればうれしくおもう。

 2000年前後,当時は”サイバー”や”デジタル”という名称がついた企業や部署というものが広告業界の中で多数生まれた時期であったが,博報堂においては”インタラクティブ・カンパニー/インタラクティブ局”という,当時としては珍しい独立採算のカンパニー制で,かつ”インタラクティブ”という「概念」にフォーカスをした部署を持っていた。

 この局は”インタラクティブ”という「概念」にフォーカスをしていたので,インターネットなどのデジタル技術を使った何かを範囲にしているだけではなかった。たとえば(物理的な)ダイレクトメールなど,コミュニケーションの“インタラクティブ化”や”パーソナル化”というもの関して,それまでのマスによる一方通行なコミュニケーションと違う,新しい時代のコミュニケーションのR&Dと先端的な実践を行う役割を持っていた。自社開発としては『お年玉くじ付き電子年賀状』,『ペタろう』,『クリックステッカー』,『ガチャロボ』といったサービスの開発と販売も行っており,事業開発的な要素もあり,これらを通じて「プロダクト開発」と「ビジネス開発」を実地で学ばせてもらったのであった(『〜年賀状』は living on the edge 時代の堀江貴文氏が,『ペタろう』は『UNIQLOCK』の田中耕一郎氏,また現Japan Times会長の末松弥奈子さんといった,その後功をなす人々とプロジェクトを組んでいたのも面白い)。

 さて,この文章でのポイントはその組織の話ではなく,その当時その組織も含めてまとめられた,いわば"原DX"とでも言えそうなあるコンセプトの話である。

 それは"e化”" i化" という2つ言葉で説明されていたものである。

 実は今ブームである感じさえする”DX"も,この2つで再度整理できるのでは?と考えている。

 "e化”というのは業務プロセスなどの電子化(今で言うデジタル化)に関する領域である。たとえば,広告原稿の電子送稿,広告取引(発注・申込・請求など)の電子化,及びプロジェクト管理や労務管理の電子化である。これによって,複雑化した業務の効率化を図り,結果として付加価値を生み出そうとするモノである。

 一方," i化" というのは,コミュニケーションのインタラクティブ化・パーソナル化に対応するものである。これはマスコミュニケーションに対するオルタナティブなコンセプトとして,すでに芽生え初めていた電子的コミュニケーション,つまりデジタルメディアを通じたコミュニケーションとデジタル化で可能になるパーソナル化の話である。前者はデジタルマーケティングビジネス業界にいる人にとってはイメージしやすいかもしれない。後者については単にデジタルメディア上でのパーソナライゼーションの話だけでなく,たとえばヴァリアブル印刷とデータベースが連携することでお客さんにとって最適な(物理歴)ダイレクトメールが届く,といったこともスコープに入っていたので,デジタル化による" i化" というものについて,そのアウトプットはデジタル上に限られたものではなかった。そしてこの文脈において,企業のデジタルキャンペーンや事業開発支援,あるいは自社開発でのk事業を行っていたのである。

 さて,当時の博報堂のプロジェクトチームでは,デジタル化に対応する2つの言葉である"e化”" i化"を用い,前者のプロジェクトを "e-hakuhodo" ,後者を" i-hakuhodo" と呼んだ。

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 おそらく今あちこちで起きているDXの話というのは,むりくりあらゆるものを統合化してデジタル化しようという話だったり,あるいはデジタル導入そのものが目的になっているものだったりする・・・というのは,もう皆わかってきている。

 そんな中,20年前に博報堂社内で検討され進められていた"e化”" i化"というコンセプトは,DXを的確に整理をしてくれるように思う。ビジネスそのものが" i 化”するという視点を入れてみると,DXが単に業務プロセスの効率化だけではなく,そもそも自社のお客さんとの関係の在り方が変わるのだ,ということまでスコープに入ってくるからだ。

 巷のDX話の多くは,"e化”視点にばかり注目がいっており," i化”の視点に欠けている。このことに注意をはらえば,DXというものについて,単なる digitalization の話ではない,ということに自然となってくるのではないだろうか。

 そういった意味では,20年前の"e化と" i化”といった考え方が,実はDXの原型であり,"原DX"とでも呼べるもののように思うのである。