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マーケティングや広告業界で「新しい言葉」が出てきたときの「態度」

 マーケティングや広告の業界は、毎年毎年新しいキーワードが出現していて、業界関係者を踊らせる。しかしこれらの「新しい言葉」について、どのように接するかというのはある種の「態度」として重要だと思う。

 例えば、「バズマーケティング Buzz Marketing 」と「バイラルマーケティング Viral Marketing」とは同じなのか?違うのか?

 例えば、「ブランデッドエンタテイメント Branded Entertainment」とは「ブランドコンテンツ Brand Content」は同じなのか?違うのか?

 例えば、「コンテンツマーケティング」と「インバウンドマーケティング」とは同じなのか?違うのか?

 例えば、「インサイドセールス」と「アウトバウンドコール」とは同じなのか?違うのか?

 

 基本的な「態度」として、「それ、前からある○○○と一緒じゃん」という風に考えてしまうのは危険だし、勿体ないとも思う。危険というのは、「○○○と一緒じゃん」というのは、それは自分自身が認識しているものの範疇に当てはめているだけであって、いわば「自分の頭の中でできあがってしまっている整理箱」の中にポイッと放り込んでしまい、それ以上考えなくなるからだ。また勿体ないというのはその裏返しで、「新しい言葉」の出現は、「新しい概念」を理解するタイミングなのにそのチャンスを逃すことになるからである。

 例えば、「バズマーケティングバイラルマーケティングはどう違うのか? Word of Mouth Marketing としては同じものなのだけれども、「バズ〜」のほうはどちらかと言えばクリエイティブ側で使われやすい言葉なのであり、「バイラル〜」のほうは仕組み的なニュアンスを持つ。「バズ〜」のほうは、「話題になるようなコンテンツを作って拡散されるマーケティング」という「シカケ」が重視されるもの。一方、「バイラル〜」のほうは、有名な Hotmail による事例のように、それ自体は面白くもなんともないんだけれども、その「シクミ」によってユーザーが意識している・していないに関わらず広めてしまうものを指す(※以下に池田紀之によって上記をまとめたものがアリ)。

www.ikedanoriyuki.jp

 このように、「バズマーケティング」と「バイラルマーケティング」は“違う”という理解をすることによって、企画や戦略の引き出しが増える。

 次に「ブランデッドエンタテイメント」と「ブランドコンテンツ」は違うのか?同じなのか?という点。

 若い人が多いネット業界ではすでに知らない人も多数いるかもしれないが「ブランデッドエンタテイメント」とは、2001年〜2002年にBMW BMWfilms というオンライン限定のショートフィルムを公開したところから、言葉としてまとめられたものだ。この BMWfilms はシーズン1として5本、シーズン2として3本公開されて、なんと15年経って2016年にシーズン3として新作 The Escape が公開された。

bmwfilms.com

 当時 BMWfilms が業界内で話題になった背景には、TVCMなどに注ぎ込む予算を「オンラインで公開されるショートフィルムの制作費」にしてしまったという逸話が大きい。BMW自身がこのプロジェクトを行った理由は、単にネットという新しいプラットフォームへの挑戦ということではない。そこにはマーケティング的・メディア戦略的な正しさがあったからである。

 当時すでに車のような高額商品を購入するときには、ネットでいろいろ調べてから買うという行為が起きていると認識されていた。ただ、ブロードバンド回線(高速・常時接続)のインターネット回線を契約するのは高価であった時代である。BMWはそこに目をつけた。「ブロードバンド回線を利用しているようなユーザーは高額所得者でかつ新しい物好きで自社の見込み客層・顧客層に合う」と。その目論見から「Branded Entertaiment」である BMWfilms は生まれたのである。

 他にもその話題を見て、例えば Mercedes などは Mixed Tape という“コンピレーションアルバム”をオンラインで配信することをスタートさせ、これは今も継続している。

 Mixed Tape

 日本でも、NECの『 it 』や日産の『WebCINEMA TRUNK』、マツダの『RUSH』、本田技研の一連のショートフィルムなど、2002年〜2005年あたりは映像コンテンツが多産されていた。

 ちなみに、NECの『it』は“さとなお”さんこと佐藤尚之さん、本田技研のショートフィルム群はNTT DoCoMoの『森の木琴』やOK Goの 『I Won't Let You Down』のプロデュースで知られる原野守弘さん、そして日産のショートフィルムetcは私高広と、これらのメンバーがプロデューサーとして当時の「ブランデッドエンタテイメント」に関わっていたのだった(電通時代には、佐藤=高広の二人部署ができ「ブランデッドエンタテイメントCR部」という名称だった)。

 さて、当時は「ブランデッドコンテンツ」という名称は一般的ではなく、「ブランデッドエンタテイメント」という名称のほうが流通していた。その背景には、「従来の広告は、(各媒体が作った)コンテンツとコンテンツの間に挟まっていたから見てもらえた。しかしネットでは、自力でエンタテイメントをやるしかない」とか、「人を引きつけ、人と人との間に挟んでもらうにはエンタテイメントである必要がある」と考えられていたということがある。もちろん、多少、テレビでできない広告のエンタテイメント性への挑戦というのもあっただろうが・・・。

 その後、2004年にバーガーキングSubservient Chicken という、コマンドを打ち込むとそれに応じて画面上の人間サイズの“ニワトリ”が返事を返すという、よりインタラクティブなコンテンツが公開され話題になったが、やはりこれも“エンタテイメント”だった(※面白いことに Subservient Chicken も2014年に復活している。ただし映像コンテンツとして)。

www.subservientchicken.com

 

 「ブランデッドエンタテイメント」はカンヌに Titanium というカテゴリーを生み出してしまうぐらいのムーブメントになったが、その背景には「媒体の“枠”にとらわれてきた従来の広告からの脱却と挑戦」があった。つまり、「ブランデッドエンタテイメント」とは「広告クリエイティブの新しいステップ」だったわけで、実はここが「ブランデッドコンテンツ」と今言われるものとの違いともなっている。

 では「ブランドコンテンツ」とは何か? 米国でこれが大きな潮流になったのは、Joe Plizzi が主宰する Content Marketing Institute の存在が大きいだろう。

contentmarketinginstitute.com

 CMIは紛れもなく、コンテンツマーケティングという言葉を広げた立役者だ。そして「ブランドコンテンツ」のあり方を示したのもこのCMIだと思う。

 CMIの各種資料を見ていると、「ブランドコンテンツ」というのは、B2CもB2Bも活用しており、かつその形態は“エンタテイメント”だけによったものではない。昔なら「ブランデッドエンタテイメント」と言われていたものもその中に包括されている。つまり、「コンテンツマーケティング」が企業によるなんらかの“コンテンツ”を使ったマーケティングを指しているのであり、その中に「ブランデッドエンタテイメント」も含むというようになっている。「ブランデッドエンタテイメント」が「新しい広告のステップ」だったのに対し、マーケティング戦術の一部として「コンテンツ」が重視された結果出てきたのが「ブランドコンテンツ」という、企業プロデュースのコンテンツなのである。

 次に、「コンテンツマーケティング「インバウンドマーケティングとは同じなのか?違うのか?という話。

 これについては以前以下の One slideで示した通りで、両者は非常に近しい関係にありながら「コンセプトが違う」。なのでやることはほぼ一緒で、コンテンツで見込み客を引きつけ、顧客を満足させるという点も同じなのが、「インバウンドマーケティング」はセールス/顧客育成までのマーケティングプロセスを重視しているのに対し、「コンテンツマーケティング」は、戦略や戦術にコンテンツを使うことを重視すべしという点が両者の相違点である。

 

 

 最後に「インサイドセールス」「アウトバウンドコール」の違いだが、これも両者が同じであればわざわざ「インサイドセールス」っていう言葉が生まれる必要はないわけだ。

 むしろ(従来的な)「アウトバウンドコール」と「インサイドセールス」は、同じように”こちらから”見込み客に連絡をとるという”行為”はするものの、その両者には本質的・概念的な違いがあるのだと考えるべきで、その違いがポイントなって、「インサイドセールス」においての受注率が、従来の「アウトバウンドコール」よりも高くなるとということである。

 「インサイドセールス」は、「インバウンドマーケティング」や最近では「アカウントベースドマーケティング ABM 」のようなデジタルを活用したマーケティング戦術の高度化がもたらした、個人アカウントや企業アカウントのデータを駆使して「非対面なのだけれども、対面以上に相手のことを理解した営業」を行うことだと考えたほうがいい。“相手のことを理解した”というのは、購買の可能性を相手の購買意向のタイミングや予算etcによって、“ちょうどいい具合・頃合い”に連絡を取ることにある。なので、資料ダウンロードした人たちのリストを作って、それに片っ端から連絡をするのは「インサイドセールス」というよりも、相手の“ちょうどいい具合・頃合い”をはからっていないので従来的な「アウトバウンドコール」に過ぎないのである。

 「インサイドセールス」の界隈には sales hack(ing) という言葉が存在する。「営業をハックする」、つまり営業のグロースのために各種データを用いて、相手の“ちょうどいい具合・頃合い”に「営業」するのが「インサイドセールス」なのであって、単に「外回り営業」との対比なのではない。

 

 さて、上記にあげた言葉の違いを見るとそれぞれがマーケットの変化を表してることがわかる。そしてその全てが、ユーザー主導型社会におけるマーケティングや広告、営業のあり方を示していることがわかってくる。「前からあるのと一緒でしょ」という思考停止では、このことが“見えない”のである。

 だからこそ、新しい言葉が出てきたときに「それは昔で言うところ***と同じ」という思考停止はやめなければいけない。わざわざ新しい言葉が出てきた背景を正確に理解することは、すごく重要。きっと両者は同じようなものに”見える”時もあるのだけれども、どこかが”違う”はずで、そこを見極めることで大きなポイント・潮流が読めるようになるはずなので。

 

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