ホンダの、ホンダらしいコンテンツマーケティングが素晴らしい。

今年の５月よりほぼ一ヶ月に一本の割合で本田技研工業のYouTubeチャンネルにアップされている「Honda原点コミック」が素晴らしい。ついに来月９月でエピローグを迎える。

もともとはこの動画は小学館から出ていた『本田宗一郎 本伝』という漫画であり、僕自身も学生時代にビッグコミックだったかスピリッツだったかスペリオールだったかの連載で読んだ記憶がなんとなくある。

本田宗一郎本伝―飛行機よりも速いクルマを作りたかった男 (Big comics special)

posted with amazletat 15.08.31

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ただ、残念ながらこの本、すでに絶版品切れであり、古書でしか入手できない。

Amazonで中古本が手に入るものの、当然冊数には限りがあるわけで、しかも有料なのでせっかくのいいストーリーなのにも関わらず、多くの人に届けることは不可能だ。

概して、創業者のストーリーはそのコーポレートブランディングに非常に貢献する。

しかも失敗と成功の両方があるストーリーであればあるほど、人々の興味をひき、そして共感を得ることができる。

こうしたストーリーは、企業と人々とのエンゲージメントを高めるのに役に立つのだ。

ホンダの場合、本田宗一郎という強烈な創業者がいて、誰もが興味を持つ。

しかしながらそのドラマ以上にドラマチックな真実のストーリーを、多くの人に知ってもらう機会はこれまでは、テレビによる映像化や各種書籍でしかなかったろう。

今回、ホンダが実施しているこの「Honda原点コミック」について、コンテンツマーケティング観点で注目したいのは、repurposeやreuseという手法をとっていることにある。

一般的に従来、マーケティング用のコンテンツというのはそれぞれのチャネル向けに作られてきたように思う。

一方、エンタテイメント業界でいつ頃からか「マルチメディア展開」と言われるときには、ひとつのコンテンツについて複数のメディアにて展開することを指し、「マルチユース」によってライセンスビジネスを拡張していった。

コンテンツマーケティングを実施し、その効率性を高めるためにはこのような「マルチユース」の視点をもっている必要がある。あるコンテンツがあったとして、それをひとつのチャネルでしか使わないとしたら非常にもったいない話である。

この観点から言えば、新たに作るコンテンツだけに目を向けるのではなく、過去に作った・作られたコンテンツの再利用も視野に入る。

「Honda原点コミック」の場合は、小学館に対していくらかのお金を払っていたりするのはもちろんあるだろうが、これはホンダにとっては漫画というコンテンツを映像化してreuseすることで新たにコンテンツを制作するよりも安価に展開できるだろうし、かつYouTubeのような場所に置くことによって漫画自体の部数以上のリーチを稼げる可能性も高い。また小学館のようなパブリッシャでありかつライセンサーにとっても、新たな収益モデルを模索できる。

そう考えると、企業が過去に媒体に取り上げられた「ブランドのストーリー」を買い上げ、再構築・再利用することで、よくいわれる「いいコンテンツを作るのは大変」というハードルを乗り越えるひとつの手段になるかもしれない。