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大きくなってしまったベンチャー企業のレガシー化を防ぐ、企業の再活性化戦略〜"rejuvenilization"

 インターネット、デジタル、インタラクティブというキーワードで呼ばれる領域は、業界で思われているほどには、すでに新しい事業領域ではない。95年〜97年あたりが黎明期だと言われているので、すでに20年の歴史ができあがってきている。

 当時、新進気鋭のベンチャーとして立ち上げられ、そして現存するネット関連企業のいくつかを見てみると、例えば上場しているところであれば、市場環境もあって株価が凹んだ時期も何度かあるものの、企業としてすこぶるいい安定期に入っているところも幾つもある。これは経営的に間違いない。

 ところが一方で、こうした「新しい領域の中の古い会社」に勤めていて辞めた人々の口から出てくるのは、「つまらなくなった」という言葉。10数年の歴史しかない会社ですら、大企業病に陥っていたり、すでにチャレンジしない会社になってたり、新しいことを受け付けることができない会社になっていたりするということである。最近、このぐらいの歴史の会社の話をしていると、それらの企業よりも遥かに古い企業であるような大企業病を患っているのではないか?と感じさせることがたまにある。簡単に言うと、「あれ?この会社ってこんなに頭のカタイ会社だっけ?」とか、「あれ?こんなに及び腰な言い訳を言う人が多い会社だっけ?」とか、そんな感じである。

 もちろん企業としての成長が順調なので、それはそれでいいことではないかと思うが、より長期的にみると、ネット関連企業/ベンチャー企業の老化現象や、ないしはまさにイノベーションのジレンマ的なところに入り込んでいて、それが事業の伸びや人材獲得に徐々に影響を及ぼしていく可能性があることは否定出来ないだろう。

 

 しかしながら、だからといって10年以上の歳月を経て安定を手に入れた企業が、大きく舵を切るようなチャレンジをすればいいかというと、それはそれでリスクがあるのであり、企業戦略として正しいとは思えない。

 むしろ、企業としての unlearning 、つまり、従来培ってきたことの”要素”を残しつつ、再構築をする、新しい要素を取り入れるようなことが必要なのだろう。このことを例えば、"rejuvenilization(リ・ジュブナライゼイション)"という言葉で捉えてみたい。

 juvenileとは「子供・青年の」といった意味合いの言葉であり、English dictionary的には、

1.
of, pertaining to, characteristic of, or suitable or intended for youngpersons: juvenile books.
2.
young; youthful: juvenile years.
3.
immature; childish; infantile: His juvenile tantrums are not in keeping with his age.
 
と説明されている言葉である。「ジュブナイル小説」というのは、青少年向けのSFなどがそれにあたる。

 この juvenile という言葉から派生する言葉が "rejuvenile"で、企業戦略にあてはめるとすると「もう一度企業としての若さを取り戻す」とか、「会社の歴史が浅かったころの状況を取り入れる」というニュアンスになる。

 "rejuvenile" という言葉が私の目に飛び込んできたのは、Harvard Business School の有名な楽天のケース "Language and Globalization: 'Englishnization" at Rakuten (A)"の中にある、とある人物へのインタビューを読んでいたときだった(ちなみにインタビュイーは偶然にも長い知人)。

www.hbs.edu

 この楽天の「英語化」のケースは、HBSの中でも人気のケースらしいが、その理由は、論文タイトルにもあるように企業がグローバライゼーションをしていく(というかすでに、デフォルトで企業はグローバルなビジネスの中にいると考えるほうが正しいと思うが)中で、異なる言語や文化を持った人々がどのように組織内のコミュニケーションや統制を行っていくのかという点で興味深く読まれているらしい。つまり単なる「英語化」がこのケースの読まれる理由なのではなく、多文化コミュニケーションが当たり前になってきた世界における一つの解、ツールとしての「言語」に注目が集まっているのだと。

 さて、"rejuvenile"というのは、ケースの中ではあまり取り立てて挙げられている言葉ではないが、私自身は非常に興味を持った。この言葉が使われていたのは、インタビューの中だと書いたが、そこでは、「”英語化”は、大きくなってしまった楽天が、もう一度ベンチャーとして精神を取り戻すためのもの」といったニュアンスで "rejuvenile"という表現が使われていた。このインタビュー対象者本人がこの言葉を使って答えたのか、あるいは論文執筆者がこの後を充てたのかはまだ確認をしていないので定かではないが、もし(かつての)ベンチャー大企業病やジレンマに陥るようなことがあるとしたら、この"rejuvenile化 (=rejuvenilization)"というのは、一つの戦略として活用が可能なものかもしれないと思う。

 "rejuvenilization"というのは、創業から何十年、あるいは百年を超えるような企業ではなく、創業から10数年〜30年程度の企業にとって有効な再活性化戦略のように思う。仮説としては、一般的によく聞かれるような”若手主導”の若返りではなく、ある事業体が立ち上がった時期を経験している人材がいて、それらの人々が行う戦略ではないかと考える。耳障りのいい”若手主導”というのは、企業によっては単なるガス抜きであったりするし、あるいは若手だけで行うことによって、中堅以上の社員が置いていかれるということもある。しかしながら、"rejuvenilization"というのは、企業全体で”青年期を取り戻す”ことを指し、楽天の「英語化」のように、若手であろうが、中堅・役員であろうが全てが同じような"rejuvenilize"に参加させられるような戦略を指す、と考えられる。

 そもそも”rejuvenile”には”大人が青年期を取り戻す”というニュアンスを孕むので、成長した企業、そこに長くいる社員も含めた再活性化にぴったりとはまる言葉だと思う。

 この"rejuvenilization"のポイントは今の所以下の要素があるのではないかと考えている。

  1. 社員全員が参加可能
  2. 若者が主導する若返り施策という意味ではない。
  3. 昔のやり方を再度行うという施策ではない。
  4. より上位、メタ的なレベルな概念である。
  5. 企業が若かりし頃に常に「新しいこと」にチャレンジしていた、その態度を取り戻すことが目的。
  6. そのため、その企業が今まで取り組んでいないことこそが、取られるべき juvenilizationとして正しいだろう。

 pivot や rejuvenilization という、ベンチャー企業特有に事業戦略はまだまだ研究の余地がありそうだ。

 

(この記事は「経営科学専攻博士課程社会人院生の研究(と徒然の)日誌」と併載しております)