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「経験マーケティング」を語るときに陥りやすい罠、なのかもしれない

 今日はToDoが多いんだが、ミスリードがありそうな文章を見つけるとどうしても書きたくなってしまうので、書いてしまおう。

 同イベントのアンバサダーでもある徳力基彦氏が、「ワールドマーケティングサミット2016」でキッザニアの創業者であるハビエル・ロペス氏のスピーチについて、アドタイでレポートしてくれている。

 (10/27追記)もとの文書のタイトルが「読んだことは10%の人しか覚えてないが、体験したことは90%の人が忘れない」から現行のものに修正されました。

www.advertimes.com

 実際、今回私は参加できなかったので、ロペス氏が話した内容は正確にはわからない。しかしながら、この「読んだことは10%の人しか覚えてないが、体験したことは90%の人が忘れない」というタイトルは大きなミスリードをしてしまう可能性があることだけは断言できる。

 アドタイの上記文章に掲載された写真を以下引用させてもらうと。

http://cdn.advertimes.com/wp-content/uploads/2016/10/at10240005.jpg

(アドタイの同記事のページより)

一部を拡大、

f:id:noritakahiro:20161026150308p:plain

このピラミッドで書かれているのは "10% of what they read"であり、「読んだことの10%」であって、「読んだことを覚えてるのは10%の人」ではないということがわかる。

 

 このタイトルのような翻訳になってしまった理由は、もしかして同時通訳者がポロっと間違えてしまったのかもしれないし、このような誤訳は例えば、『ザ・サーチ』の中では"database of intentions"が「意思あるデータベース」と大きな間違いをされていたり(実際は「人々の意思が集まるデータベース」が正しい訳)することもあり、読み手に誤った解釈を導いてしまう可能性があるので、なぜこうなったのかはわからない。

ザ・サーチ グーグルが世界を変えた

ザ・サーチ グーグルが世界を変えた

 

 

 特にマーケティングやITの領域については、定まった訳がなかったり、ジャーゴンだったり、あるいは新しい言葉過ぎて訳すのが難しいこともあり、訳者も大変だと思う。なので、できるだけ読み手は原典にあたるしかない。読んだつもりが、大いに間違って読んでしまう、そんなことがあるわけなので。

 さて、ロペス氏のスライドに戻ろうか。

 このロペス氏のスライドには、Experience Pyramidと書いてあるように、体験・経験というものを段階的に描いある。左に書かれている文章をピックアップしてみると、 People generally remember (一般的に言って人々が覚えてるのは)、

  • 新聞・雑誌・メールについては、10% of what they read(読んだことの10%)

  • ラジオについては、20% of what they hear(聞いたことの20%)

  • テレビCMについては、30% of what they see (見たことの30%)

  • ビデオ*1については、50% of what they see and hear(見たり聞いたりしたことの50%)

  • ネット*2においては、70%  of what they say and write (言ったこと書いたことの70%)*3

  • 体験型のものにおいては、90% of what they do (行ったことの90%)

ということになっている。この資料が Van Rooyen 2011と下部に書いてあるので探してみたが、原典は見つからないので、どうして上記が妥当なのかはわからないが、恐らく元ネタは Edger Dale's の Cone of experience、Cone of learning だと思う。以下Wikipediaより拝借。

 

f:id:noritakahiro:20161026152944p:plain

 

 しかしながら、もともと Edger Dale も教育学の分野で上記のようなコーン(円錐)を提示したものの、それを真剣に捉えれるものとして表明したわけでもなく、かつ**%という数値をつけてもいなかった。**%覚えてる、という注釈をつけたのは、モービル石油のD. G. Treichlerという人物らしく、1967年に非学術誌で触れたのが始まりらしい。ちなみに上記の緑のコーンも”An example of the false "cone of learning" attributed to Dale"として紹介されているもので、正しいものではないらしい。

 数字がついてると”わかりやすく”、かつ”もっともらしい”一方、しかし裏付けがちゃんと成されていないこともあるかもしれないので、気をつけないといけない。

 さて、一方で、上記が”もっともらしく”受け入れられるのは、「学術的な妥当性」は裏付けられないものの、「経験的な妥当性」があるからなように思う。この観点で触れておきたい。

 「経験マーケティング」というのは、ともすれば、従来型のマーケティングを否定するものになりがちだし、そのような文脈で使いやすいものである。しかしながら、誤ってはいけないのは、「メディア接触」の結果得られる体験も「メディア体験」という「経験」だということである。つまり、本来の「経験マーケティング」というのは、「メディア」と「経験」のような分け方をするようなものではない。むしろそれぞれのチャネルや施策があたえる「経験・体験」の観点から、それらを総てブランドやサービス・商品への「経験」のマーケティングとして組み合わせ、実施するものである。

 もともとのDaleの考え方は「覚えやすさと情報との出会い方の関係」というものであり、いわばMcLuhan的な「メディアはメッセージである」というものに近いものである(それが非アカデミックであるという点においても)が、「経験マーケティング」においては、例えば各種メディア経験とメッセージ・情報の関係、その最適な組合せを考えるという点において共通はしているのだ。

 そう考えてみると、経験的な妥当性という観点においては、ロベス氏のスライドに使われている Van Rooyenという人物のPyramidは妥当であるように思う。なぜなら、右の項目には Media channel と書いてあり、この図の表すところが単なるチャネルごとの優劣ではなく、各”メディア”の相対的な比較に過ぎないものだから。

 ちなみに Cone of Experience/Learningは、「マズロー欲求段階説」と同じぐらい falseが多い。「マズロー欲求段階説」もよく引用されますが、あれも実際の実験的な結果としては怪しいと言われてます。

*1:自分から自発的に見るような動画、例えばYouTubeの動画やあるいはeLearningの動画などを指すと思われる

*2:ここは Internet の定義がアバウトすぎる

*3:ネットを”参加型のもの”ととらえてる