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メディアと広告とマーケティング、そしてサービスデザイン。

ドラッカーって「営業(マン)を不要にする」って言ったの?

Twitterでこの話題があがってたので。

 

ドラッカーの名言と言われる、

マーケティングの目的は営業を不要にすること」

という一文ですが、これを、

マーケティングの目的は営業マンを不要にすること」

とも勘違いしてとらえてるようなケースをも見受けられます。

 

当のドラッカーは、その著書、Management: Tasks, Responsibilities, Plactices の中でどのように書いているかと言うと、

the aim of marketing is to make selling superfluous

なんですね。上記の日本語訳はここが訳されたものです。

Management: Tasks, Responsibilities, Practices

Management: Tasks, Responsibilities, Practices

 

 日本語版はこちら。

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

マネジメント[エッセンシャル版] - 基本と原則

 

 

それでこの一文の訳語なんですが、superflous をどう訳すかでニュアンスが変わってきてしまうわけです。一般的には「不要」と訳してるのを見かけますし、特に間違いではないと思いますけど、でも「不要」と言ってしまうと、「マーケティングがあれば営業がいらないんだよね?」みたいな極端な解釈になってしまう恐れあり。「マーケティング万歳!」な若者たちにはドラッカーからのエールのように聞こえてしまうかもしれませんね。

 

しかしこの superflous という言葉は、super と flous というどちらも、“過剰”だとか”溢れている状態”だとか“余分”というニュアンスを表す言葉なのであって、すなわち「不要」と訳してしまうと、言い過ぎと言うか誤解を招いてしまうのでしょう。

 

ちなみにみんな大好き cambridge dictionary でこの語を引いてみると、

more than is needed or wanted

と書いてあります。つまり、“必要以上”・“余分なもの”ですね。

dictionary.cambridge.org

ついでに webster でも引いてみると、

Definition of superfluous
1a :  exceeding what is sufficient or necessary : EXTRA
 b :  not needed : UNNECESSARY
2 obsolete : marked by wastefulness : EXTRAVAGANT 

www.merriam-webster.com

と説明されてます。

 

つまり、

the aim of marketing is to make selling superfluous

の一文は

マーケティングの目的というのは、営業・販売という行為をしなくてもいい(=余分なもの)にすることにある

という理解をすることが正しいと思います。

 

次に上記の一文含む前後の文章を Management: Tasks, Responsibilities, Plactices から引用してみると次のようになっています。

There will always, one can assume, be need for some selling. But the aim of marketing is to make selling superfluous. The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits him and sells itself. Ideally, marketing should result in a customer who is ready to buy. All that should be needed then is to make the product or service available.

分けて訳していくと、

There will always, one can assume, be need for some selling.

概して、もっと営業・販売することが必要だと考えがちだ。

But the aim of marketing is to make selling superfluous.

しかし、マーケティングの目的というのは営業・販売を余分な行為にしてしまうことなのだ。

The aim of marketing is to know and understand the customer so well that the product or service fits him and sells itself.

マーケティングの目的というのは顧客を理解し、商品やサービスがその人々にフィットして(その商品やサービス)それ自身が売れる状態にすることにある。

Ideally, marketing should result in a customer who is ready to buy.

理想的には、マーケティングというのは買う状態にある顧客を生み出すことにある。

All that should be needed then is to make the product or service available.

その時必要になってくるのは、プロダクトやサービスが利用可能な状況にあることなのだ。

ということになります。

つまり、ドラッカー自身は「営業を不要にする」とは言ってません。ドラッカーが言ってるのは、売上を伸ばすために(あるいは売上が落ちたときに)やたらと営業マンを増やしたり、営業活動を急にアグレッシブにやるのではなく、ちゃんとマーケティングもやりなさいよ、ということです。そして、マーケティング活動によってビジネスプロセス全体の中における営業の役割を「過剰」なものとするように考えなさい、ということなんですね。

ただもう一つ重要なのは、ここでドラッカーの言ってる「マーケティング」というのは結構上位概念的な意味合いで、「顧客を知って、それにあった商品やサービスを生み出して自然に売れるようにしなさい」という話なので、マーケティングセクションにおけるマーケティング活動というよりも、経営戦略としてのマーケティングの話(すなわちマーケティング・マネジメント)のことであるという理解もしておく必要があるでしょう(そりゃそうか、Management の一節なんだから)。

 

というわけで、よく引用されるこの一文のニュアンスは伝わったでしょうか?

 

誤った理解でこの一文を会社内で出して、営業チームから総スカンを食う人がいなくなりますよう、この文章を書きました(笑。