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ライフネット生命の出口社長のことばから考える人材配置の最適化〜「比較優位」の観点から。

またまた真面目に知識の棚卸がてらまともなブログを書こうと、インスピレーションやモチベーションというものが沸き立つようなブログの記事を読んでしまいましたので。

今回は、”おじさんが負けを認めないのは権威主義なのか?負けを認めたおじさんは、負けを認めたことにおいて尊敬されるべきなのか?”という視点で文章を書いてます。

さて、そのインスピレーションやモチベーションのもととなったブログの記事というのはこちらになります。

すべてのおじさんはライフネット生命・出口社長を見習うべきだと思う - ihayato.書店 | ihayato.書店.

大学レベルだと経済学を教える学部はもとより、一般教養レベルの経済学で学べる内容かと思いますが、「比較優位」という概念があります。これは、誰が誰よりも優れているとか、自分のことはアホですといって若いものに譲るとかそういういわゆる”精神論”的な話ではありません。むしろ、合理的な考え方が好きな典型的な経済学的な概念で、しかもこれは人材配置の観点からは非常にためになるキーワードなのです。

例を出しましょう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  A君とB君という2人の社員がいました。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

もしどちらかの社員が「俺はソーシャルメディアが好きだからソーシャルメディアコンサルタントをやるんだ!」と言っても、人材の最適化というのは単純に自分自身一人だけの主観的な好き嫌いや得意不得意だけでは行うことができません(当然か)。で、ここでA君とB君の得意分野を見てみますと

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  A君は営業が得意  B君は資料作成が得意 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

じゃあ、A君は営業やって、B君は資料作成をやればいいよね、と、考えます。これ、それぞれが何が得意かってのを「絶対優位」って言うんです、経済学では。で、

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  ”A君は営業に絶対優位があり、   B君は資料作成に絶対優位がある” ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

となるわけです。

では、次の状況を考えてみてください。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  営業も資料作成もA君のほうが得意 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

じゃあ、B君は?B君はどうすればいいの?何もしなくていいの?となります。 ここで、「比較優位」という考え方を登場させましょう。

では、ここでA君とB君の仕事っぷりを比較してみます。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  A君は、  ・営業を1時間とするとアポが4件とれる。  ・資料作成を1時間とすると20ページの資料が作れる。

 B君は、  ・営業を1時間とするとアポが1件とれる。  ・資料作成を1時間とすると10ページの資料が作れる。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

とするとですね、

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  A君は、  ・アポ4件=資料20ページ      ↓  ・アポ1件=資料5ページ      ↓  ・アポ1/5件=資料1ページ

 B君は、  ・アポ1件=資料10ページ      ↓  ・アポ1/10件=資料1ページ ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

となるわけです。

つまり、

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー   A君は、アポ1件=資料5ページなところ、   B君は、アポ1件=資料10ページなので、   →営業はA君がやったほうがいい

  A君は、アポ1/5件=資料1ページなところ、   B君は、アポ1/10件=資料1ページなので、   →資料作成はB君がやったほうがいい ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

となります。これが「比較優位」というやつでして、”何が得意か”を交換可能なもの(この場合、1時間あたりにこなす仕事量)として考えた時にどっちが比較的優位なのかをはじき出す考え方です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー  ”A君は営業に比較優位があり、   B君は資料作成に比較優位がある” ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

となります。

ライフネット生命の出口社長の話で言うと、社長自身はネットに対しての比較優位が若手の社員よりは劣るので、そこは若手社員にやらせたほうがよい、となります。例えば出口社長は講演やそのための移動が多いわけで、その”仕事量”を単位時間あたりではじき出し、そしてもし若手の社員が講演をしたり移動したとしてそれで集められる動員数をこれまた同じように換算してみると、きっとどちらがどちらに比較優位があるかわかるでしょう。まぁ今回の出口社長のケースでは、細かいことは必要なく、しかしながら直感的にこの比較優位的な考え方が適用されているのはほぼ間違いありません。

なぜって? 人材の配置というのは絶対にこれが得意だからとか好き嫌いとか、若手か年長者かではなく、それぞれのこなす仕事量を考慮したときにどの組み合わせが最も全体でのパフォーマンスをあげられるのかという、仕事量の最適化だからなわけですよ。

仕事の経験というのは一般的にそれだけの年月を重ねている年長者のほうが上なわけで、こなせる仕事量も若手に比べて多いでしょう。一方で、広告やマーケティング、PRの世界では世代的に慣れ親しんでいるか親しんでいないかで、例えばメディアに関する企画を”仕事量”として換算すると若者のほうに軍配があがることもあるでしょう。しかしこれらは決して”権威主義を維持する”とかいう話のもとで行われるものではなく、「比較優位」の観点で行われているわけです。この言葉を知らなかったとしても、組織運営というのは多かれ少なかれこのような最適化に基づいて行われているということを知っておいて損はありません。

そういった意味で、「部分的に負けを認めて任せる」と上記したブログの書き手は書いてますが、え?あれ?元の出口社長の記事の中に「負け」って書いてありましたっけ?すみません、僕には見つけることができませんでした。

えーと、巻き戻しまして、

そういった意味で、「部分的に負けを認めて任せる」と上記したブログの書き手は書いてますが、出口社長は特に「負けを認めてる」という”勝ち負け”という二元論で考えてるのではなく、経営者として自然と比較優位の観点から、人材の最適化/業務の最適化を行なっているのではないかと思われます。つまり何度も言いますがこれは勝ち負けではなく、(特に経営の立場やリーダー的な上に立つ立場の人は重要なことだけど)自分の弱みを理解して人に任せられるかどうかとか、人材配置の最適化の話。世代間の話でも勝負事でもないと思うんだけど! 

どうでしょう?この考え方、役に立ちそうですか?

ちなみにこの考え方は社会にどんな仕事があるか、なぜこんな仕事があるのかを理解する上でも大事でしょう。例えば「マックジョブ」といわれるような仕事がありますが、社会全体で考えればそこでも比較優位が働いているわけです。それぞれの労働を仕事量で換算した時に「マックジョブ」だって重要な位置を占めてるわけですね。なぜ「マックジョブ」がマニュアル化されているかというと、そのほうが比較優位がない場合でも効率的に仕事ができるからではないですかね?誰でもできる仕事というのは実は比較優位的に見るとすっごくよくできた仕組みですよ! 比較優位の考え方を知っていれば、単純な世代間闘争だと、マックジョブに甘んじるとか考えることもなくなるわけです。むしろ、これらについてもっと合理的かつ俯瞰的に把握することができ、組織や世の中における”仕事”・”業務”というものを見ることができるんじゃないでしょうか? たったこの一つの概念を知ってるだけで、ですよ? もちろん政経学部や経済学部みたいな名前ついたところを卒業しているともっとたくさんの概念を知っていて、もっと的確な指摘ができるのではないかと思いますが。

ところで、↑に書いた事例ですが、

『出社が楽しい経済学』 日本放送出版協会

からお借りしました。 (※いやー、”引用”って楽ですね。どんどんアフィリエイトやりたくなります。)

書いてある内容、もちろん今回の「比較優位」も、「政経学部」や「経済学部」、「経営学部」といった学部では基本的に学んできていることかと思われますので、そういった学部出身の方には不要かと思われますが、もしも「長く会社に勤めてるだけで偉そう」だとか、「もっと若手を起用すべきだ」とか、「マックジョブなんて」と考えることがあれば、ぜひご一読いただければと思います。

すっごくわかりやすい、経済学の本なので。