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メディアと広告とマーケティング、そしてサービスデザイン。

メディア環境の”再地図化”

こんな記事があった。

■定期購読依然高い新聞、オンラインニュースサイトは取って代われるか?

答)取って代わらない。

メディア論を勉強してきてつくづく良かったなと思うのが、こういうテーマの議論のとき。

僕が最大の興味を払っていた「ソシオ・メディア論」では、「情報技術≠メディア」という考えがあって、これが僕のモノの考え方・視点の大きなところを占めている。

「ソシオ・メディア論」は、”社会的な文脈 context "の中で、ある「情報技術」がどのような「メディア」となるのか? という 社会/情報技術/メディアの三角形の中で、メディアが分析される。

例をあげる。

テレビがこの世に出現した時、「絵の出るラジオ」と捉えてられていて、ラジオに取って代わるもの replacement として、ラジオが駆逐されるだろう、と考えられていた。ところが実際はどうだろう?

あるいは、

今、personal media として使われている電話は、過去、貴族階級の自宅にオペラハウスで演じられている楽曲を送るためのインフラとしてマスメディア的に使われていたこともある。つまり、「電話」という技術は最初から、 peronal media として位置づけられていたわけではなかった。

あるいは、

ポケベルは、当初ビジネスマンが会社と連絡をとりあうツールだったが、女子高校生という”文脈”の中で、仲間内のコミュニケーションツールとなった。これは、提供者側が想定していなかった利用法である。

これらの3つのケースに代表されるように、

1)”メディア”は単純に新しい”メディア”に取って代わられるものではなく、新しい”メディア”が出てきた際に自らの位置をズラすことで生き延びるケースもある。

2)”メディア”とは”情報技術”が社会的文脈の中に埋め込まれた embedded された時に姿を見せる、”情報技術”の一様態である。

3)”情報技術”の使われ方(=新しい”メディア”)は、「提供者」ではなく「使用者」側によって生み出されることもある(「消費者」というコトバは”購入した人”という完結系のニュアンスを持つため、”利用している人”というニュアンスで「使用者」というコトバで呼ぶ by ミシェル・ド・セルトー他。) もし、オンラインニュースが新聞と取って代わるのであれば、新聞と同じ価値を提供しつつ、かつ新たな価値を持っていなければならないだろう。しかし、実際には source は一緒であってもこの2つが提供する価値は別々のものだ。だから取って代わることはない。

ただし、オンラインニュースの出現によって、新聞の価値/位置づけが変わることは確かである。

新しいメディアが出てきたときに、古いメディアは単に駆逐されるわけでない。

「メディアの地図」が書き換わる、という現象が起きるのであって、単純に古いメディアが取って代わられるのではない。 新しいメディアがもたらすものは、各メディアの提供する価値が変わり、各メディア間の関係が変わる、という「メディア環境の”再地図化” re-configuration」なのである(※このコンセプトは以下の参考書籍にあげたM.ポスターの本を読まれたし)。

さて、最初の”答)”に違和感を持った人がいるかもしれないので、もう少し付け加えておくと、ユーザー/読者の層が変わることで片方は縮小、片方は増加となることは充分ありえる。例えば若年層になればなるほどオンラインへ、高年齢層は新聞のまま、といったような。そういった意味で単純に「置き換わる」とは言えないと思うのだ。

 

関連書籍)

情報様式論 (岩波現代文庫)
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photo credit: Image taken from page 45 of 'The World as it is. A new and comprehensive system of Modern Geography, physical, political and commercial. [Vol. 1 and 2 by W. C. Taylor and C. Mackay; vol. 3 by W. C. Stafford.]' via photopin (license)