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「ゲーセン」 1996/11/1 『メディア人間学』(京都新聞)

そこには様々な格闘技の使い手たちが集まる。中国拳法である八極拳や酔拳・蟷螂拳、ブルース・リーの作り出した格闘技ジークンドー、合気柔術、プロレス、相撲などを駆使し、彼らは日夜闘い続けている。「現実」に日本のあちこちでこのような闘いが繰り広げられている。今あなたがこれを読んでいる間にも---。その場所とは、通称「ゲーセン」、つまりゲームセンターである。

最近のビデオ・ゲームの流行は格闘モノである。画面の中のキャラクターがあらゆる技をくりだしながら、相手を打ち倒していくといったタイプのゲームである。この種のゲームは以前からあったものの、現在までのブームは、『ストリートファイター2(スト2)』に始まるといってもいいだろう。このゲームは、肉体派俳優ジャン=クロード=ヴァンダム主演で、テーマソングをチャゲ&飛鳥が歌うという異色のハリウッド映画にまでなったほど話題になった。しかしもっと注目すべきは『スト2』や今やそれを凌ぐ人気の『バーチャファイター3(バーチャ3)』といったゲームが、若者の新たなメディアとなり、新たなコミュニケーションを生み出しているということである。それはこれらのゲームで確立された「対戦」というスタイルにある。

背中合わせに並べられたゲーム機は、知らない相手との「乱入」(この種のゲームは対戦相手として自由に参加できるようになっている)を容易くした。見知らぬ誰かと「対戦」し、勝ち続けば画面の上方に勝ち抜き人数が表示される。このとき彼らはその人数分の相手と、モニター上のキャラクターの身体を通じて、無言の電子的・身体的コミュニケーションをとっているのだ。と、言えば「最近の若者は・・・」といった話になってしまいがちで一面的すぎるのでもう一つ例を出そう。

9月に市場導入された『バーチャ3』はCGの美しさに定評があり、女のコたちにまで人気が広がり、その周りには必ずギャラリーが群がっている。観察していると、ある種の卑怯な勝ち方をするプレイヤーがいたり、勝ち抜き人数の多いプレイヤーがいれば、あたかも一致団結したかのように、ギャラリーが次々と「乱入」し「対戦」ていくという光景に出くわすことがある。そのうちにその「挑戦者」たち同士で、「あの技はこうやってかわすこどができる」とか情報交換を始め、知らない間に友達になっていたりすることもままあるのである。

つまりもはや「ゲーセン」は不良の溜まり場、退廃的な空間ではなく、若者たちの一つのコミュニケーション空間となっている。ドイツの社会学者ユルゲン・ハバーマスは西洋世界において様々な意見交換が行われた「サロン」の機能に注目しているが、果たして「ゲーセン」は若者にとってのある種の「サロン」になりうるだろうか。もしそうなれば、ここから新たな若者文化が生まれるのではと僕は期待してるのだが。