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メディアと広告とマーケティングと。

アドフラウド問題に関するスキャンダラスな記事の書き方が気になる〜悪いのはアドテク業者や代理店”だけ”なのか?

アドテクノロジー業界 アドテク ディスプレイ広告 広告業界 業界研究・業界ニュース

 読売新聞が2/18付けで以下のニュースを出して以来、「アドフラウド」という言葉が業界の、いや世の中の(一部の)中でようやく注目されている。

www.msn.com

 しかしながらこの問題を、アドテク事業者や代理店を悪と決めつけるような書き方になっている記事を見るにつけ、ことの本質が歪められて理解が進むことを懸念している。

 元の読売の記事にも「閲覧水増し」とあるが、実際は業者が「水増し」をしているわけではなく、ボットなどに手を焼いてるのはアドテク事業者も同様であり、むしろ被害者側にいる。このあたりは、請求面で問題が生じた電通子会社の例の事件とは一緒にしてはならない。

thepage.jp

 電通子会社による「架空請求」は意図的に行われたものであるが、アドフラウドの問題はアドテク事業者、代理店、サイトも「意図的」に「水増し」をして行おうとしているわけではまったくなく、ボットetcによる被害者とも言える。

 また、現在のネット広告の世界は(とりわけ日本では成約などを目的としたコンバージョン志向の)運用型広告が大きな部分を占めており、このこともアドフラウド問題への理解をややこしくしているように思う。

 例えば、現代ビジネスに以下のような記事が出ていた。

gendai.ismedia.jp

 この記事を書かれた方は、ネット広告や広告業界のトピックで名のしれたジャーナリストという話ですが、すみません、私は存じ上げませんでした。

 さて、アドフラウド問題はネット広告における大きな問題ではあるけれども、一方で誤謬を誘うような記述があったりするのは懸念事項。上記の現代ビジネスに寄稿された記事においても同様で、(総論的に見ると同意できる箇所もあるのですが)そこかしこにネット広告業界への誤った認識やアドフラウド問題への論理的誤謬のある箇所があるのが気になる。以下、上記記事からの引用をしながら指摘していきたい。

 

 

「アドフラウドに関する国内データが明らかになるのは初めて」と、読売は胸を張る。

 そもそも「読売が調査した」わけでないので、どうして読売が”胸を張る”のかがよくわからない。また実際この調査主体と調査手法が明らかでなく、新聞社の記事としては曖昧過ぎると思っていた次第。

2年前に独自動車メーカーが北米の広告配信業者を訴えた事件では、配信した広告の57%がボットによる水増しだった。  

 この件は2014年にMercedesがRocketfuelを使ってやったキャンペーンで、Mercedes側の立場で調査をしたTeremetryのレポートでわかった話。FTの以下の記事で世の中に知られるようになった。

 Mercedes online ads viewed more by fraudster robots than humans" FT

 現代ビジネスの寄稿記事では事業者が「意図的に水増し」し「訴えられた」ように読めるが、FTの元記事を読めばわかるようにadfraud分をRocketfuelが返金したという話であって、実際はRocketfuel側も”水増し”した話ではない。

運用型では、ユーザーがサイトを開くと瞬時に入札が行われて広告が表示される。その多くはRTB(リアルタイム・ビッティング)と呼ばれる自動広告買い付けシステムだが、広告主が期待するのは、ブランド力を高められる質の高い情報サイトへの出稿であり、かつ成約に至るクリックに結びつくようなターゲティングが出来ている方が望ましい。

 現状の運用型の多くは「購買などのコンバージョンに結びつく」のを期待しての広告出稿であり、「ブランド力を高められる質の高いサイトへの出稿」というものではない。前者の場合はCPCなのでちゃんとしたクリックが稼げれば広告の出す面はあまり気にされることはない。「質」の話が話題になるのは確かにブランド目的のほうだけれども、上記の話はこの両者の話を混ぜて話をしてしまっているので、ちゃんと整理されていない。

ネット広告業者は質を問わない。というより、良質な情報サイトは広告掲載単価のCPM(コストパーミル=1000表示に対するコスト)も高くなるので、ごく一般的なサイトや低レベルの安価なCPMのサイトも必要とする。“まぜこぜ”にして表示数を稼ぐとともに、CPMの単価を引き下げることで自分たちの利益を引き上げるのだ。 

  これはeCPMとCPMの話が混同されているのではないか?とも読める。一般的なネット広告の取引として、CPMが高いサイトと安価なCPMのサイトというのは基本的に売られ方・買われ方が違う。前者の場合は基本的には「純広 direct sell」扱いになることが多く、またCPMが低いサイト(実際にはeCPMが低いサイトということだろうが・・・)はRTB/DSPで買われることが多い。両者は商流が違うことも多い。またこれらをまぜこぜにして「表示数を稼ぐ」というのは、概して大きなキャンペーンでは「純広」だけでは目標とする「表示数」に到達しないことも多いためにアドネットワークなども使うのであって、悪意があって「表示数を稼ぐ」というように読める文章は誤謬を誘っているのではないか?と思える。また、それによってネット広告業者が「利益を稼ぐ」という筆者の主張の根拠もよくわからない。むしろ利益稼げません。運用型を増やしたらコストが増えるので。

例えば、代理店の営業担当が、広告主に対し、想定クリック率0.18%と控え目な数字で見積もりを出したとする。これが予想を上回る0.36%を達成すれば、調達CPMの価格は半減、逆に利益は数倍となる。報告クリック数はそのままで、実績クリック率を伏せておけば代理店は濡れ手に粟だ。

 

 クリック率比較的いいケースですね・・・というツッコミは置いておいて、”CTRが二倍になればCPMの価格が半減して利益が数倍になる”・・・という話が何を言ってるのか理解できない。CPMでバイイングしてるなら、CTRが二倍になっても”利益は数倍になる”ということはないし、CPCでバイイングしていたとしたら、クリック数の増加によってネット広告代理店側の”売上”はもちろん上がる。でも”CPMの価格が半減して〜”以降のくだりはよくわからない。

運用型で行われる入札競争では、0.1秒以内の広告表示というアドテクの論理を優先、ブラックボックスのなかで質を問わずにサイトが選択される。

 いえ、これは正しくない理解を誘ってます。実際は現在の運用型広告、アドテクと呼ばれるものはオーディエンスデータによる運用が大きな部分を占めています。つまり、”ブラックボックス”によって”サイトの質を考慮していない”ということではなく、運用型広告が(ある意味筆者自身が書いているように)”成約などの成果を求める”ものになっているから、”人”を重視しているのであって、”サイトの質”や”サイトやコンテンツとの親和性”を考慮していない、というのが実態です。なので、”広告表示の中でアドテクの論理を優先している”ということでは全くありません。むしろ現在の運用型ネット広告に対する”需要”を反映しているのです。

やるべきは、アドテクが持つブラックボックスを排すること。 

 いや、アドテクそのものがブラックボックスを持ってるわけじゃないんですよ。アドテクで表示される先のサイトで(例えば)ボットの話などは行われてるわけです。アドテク業者からすると、アドサービングなどのコストをそれらボットに食われても(正当には)広告主に請求できない状況になってるわけです。また必ずしもサイト側の問題・・・というわけでもなく、むしろインターネットにおける闇の部分なわけであって、アドテク業者だけを鬼の首をとったようにやいのやいのいってもなんら本質的ではありません。MoatやIntegral Ad Scienceのようなアドベリフィケーションの業者の仕組みを盛り込むアドテク事業者も増えてきている状況を鑑みると、アドテク事業者は真摯にこの問題に取り込もうとしていると私には見えます。

見える化」を阻止しているのが、現在、ブラックボックスのなかで収益の最大化を図っている代理店やネット広告業者だという。

 これはある部分で事実です。しかしサイト側自身もその傾向はあります。そもそもサードパーティの計測ツールを広告主や代理店が使うことを嫌がってきたのは媒体側であり、これによってサイトのパワー(UUやimpなど)が丸裸にされてしまう恐怖からまだまだ逃れられていません。「広告在庫が減る可能性が高い」という恐怖です。むしろサイトパワーが第三者によって評価されることで価値が上がると考えられるほど媒体側のマインドセットも変わっていません。

 ネットの世界にはABCのように部数調査する組織はないゆえ、それぞれの媒体が出してくる資料しか判断基準がなく、またDSPなどを経由して得られるimp/CTRのデータでしか細かいサイトまで含めた数値を見ることはできないのです。

 これらはネット広告業界10数年の歴史の中で幾層にも重なった課題の結果起きている話なので、アドテク業者や広告代理店が悪だといって、スキャンダルとしてとりあげていても、なんら解決にもならないし、本質的なものではありません。

 ただ一つこういう記事の価値をあげるとすると、アドフラウドなどのトピックに皆が注目するというところでしょうか。

 しかしながらやはり論理的誤謬を誘ったり、事実とは異なるような内容については知らない人を間違った理解に導くので、非常に懸念される部分の多い記事だとは思います。

 

※最近はブログの更新よりも、以下のサロンで話題のトピックにコメントつけてアップデートしてるほうが多くなってきました。もし本ブログに書かれている内容などについて、より早く、より濃く、よりインタラクティブに情報が欲しい方は、マーケティングや広告、メディア、アドテクなどを中心に情報提供と概説を行っている以下のコミュニティ(有料)への参加もご検討下さい。

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