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セルフブランディング と self branding 、そして パーソナルブランディング personal branding

ちなみに今から書くことは、いま「セルフブランディング」という言葉で話題になっている人を攻撃するものではなく、用語の違和感を整理するためのものである。

英語にも self branding という言葉があり、実はこれはこれでソーシャルメディアの時代において非常に重要なキーワードだと思うのだが、日本で言われる「セルフブランディング」とは違った意味を持つ。日本では「セルフブランディング」というのは自分自身をブランド化していくことをさすので、どちらかというと、impression management とか personal branding にあたる言葉となっている。

では、self branding というのは何かというと、self service というニュアンスが「自分をサービスする」ではなく、「サービス(であるものを)自ら行う」ということであるように、「自らをブランドに近づけていく」という消費者行動のことを指す。

"self brand" - wikipedia から引用をすると、次のようになる。

Self branding describes the process in which consumers match their own self-concept with the images of a certain brand. self branding とは消費者が自分の自己概念(=自分はどのような人間であるのか)と、あるブランドが持つイメージを照らしあわせていく過程である

つまり、一般的にブランディングと呼ばれるものが、ブランド側からの働きかけなのに対し、self branding とは、消費者側が自らがイメージする像にマッチするブランドに合わせていくという消費者行動のことを指す。

これは心理学でいうところの self-congruity (=自己を適合させていく)、という考え方に基づく。 ブランド側から観れば、(自分たちという)一つのブランドから一人のお客さんへの働きかけとなるが、逆に、消費者側から観れば、このブランド(群)を選ぶ自分、というものによって自分を編みあげていくことで、self concept を作っていく。この過程が self branding と呼ばれる。

消費されるものが、ストーリー(物語)などであって、商品そのものではない、と言われて久しい。単なるモノではなく、そのモノが持つコンテクストなども含めて購買されるのは、この self branding という self congruity/self concept に基づくブランディングを考えるとわかりやすい。

いわゆる「共有」や「共感」の時代と言われる、ソーシャルメディアを中心に情報のパイプラインが広がる時代においては、選ぶことのできるブランドとの出会いが増えてくるわけだから、当然、self branding における自己編集性も多様化し、しかもその編集スピードもあがるだろうと思われる。しかもそれは、常に -ing の状態、つまりフローの状態のアイデンティティの在り方という、ポストポストモダンなアイデンティティ論の始まりでもあって。となると、「自分ごと化」によって商品が買ってもらえるという考え方自体も、「じゃあその時の”自分”って何を指すの?」ということになってくるのではないか、と。

「セルフブランディング」にしても、「自分ごと化」にしても、それぞれのコンセプトに背景にある「セルフ」や「自分」という概念そのものが変化していることを前提に考えなければ行けないのではないか、と思うんだが。でないと、近代的な「自分」の存在が押し付けられているという強迫観念のもとに出てきた結果であって、実は根っこでは「自分」の呪縛から逃れることはできない。

ブランディングやマーケティングも、おもにB2Cの領域では、Cであるところの消費者のアイデンティティ形成の変化、というテーマから逃れることができない。これは「コンテクスト」というコンセプトとともに日々考えなければならないテーマだとおもう。